ブシロードの宣伝戦略がなんとなく読める「煽動者」を読んだ
最近、「煽動者 ~徹底プロモーション 仕掛人の哲学~」という本を読みました。 これは今かなり勢いのあるアニメ・ゲームのメディア企業であるブシロードの代表取締役会長の自伝的な本です。
2013年1月出版なのでラブライブ!(同時期にアニメ開始)やBanG Dream!(2015年)がブレイクする前の話で、主にヴァイスシュヴァルツとヴァンガード、新日本プロレスについて書いています。
とはいえコンテンツ制作的な部分にはあまり触れておらず、社長の自伝とどういう戦略でやったのかとか、マーケティング手法とかがメインです。
この本で面白いのはヴァンガードの頃にやっていた広告戦略をBanG Dream!(以下バンドリ)の時や現在でも踏襲しており、かつなかなか他に同じようなことをしているコンテンツ会社がいない手法だなというところです。
その手法というのは大きく分けて以下の2つです。
- 徹底した再放送
- 常にリアルな場に広告を出し続ける
徹底した再放送
アニメは数話見逃すと乗り遅れた感が出てしまい、追わずに諦めるといったことがおきます。
特に今だと同時にたくさんのアニメがスタートするので乗り遅れたアニメは切ってほかのを見るということは容易に行われます。(いわゆる三話切り)
また、最近はオンライン配信が盛んになったのである程度回避策はありますが、基本的に有料なのでオンラインが見られない層や通常なら無料で観れたのに…という感情とかがあり、乗り遅れてそのままといった人が出ます1。
そこですぐに再放送、具体的には1月のアニメを4月、7月に再放送するといった手法を取るそうです。
実際当時の情報2によると、以下のように2011年1月から始まったヴァンガードは3ヶ月後の4月から、7月から、10月からどこかしらで再放送しているという、なかなかハイペースな再放送を繰り返しています。
2011年1-3月に本放送
2011年4月4日より再放送
2011年7月7日~9月29日に別の番組名で再放送
2011年10月4日よりBSで再放送
BanG Dream!(以下バンドリ)も同じように1月から開始ですが4月から再放送を初めていますし、Tokyo MXでは1-3月で本放送、4月から7月にかけて特番(7月にライブがあったので)、7月からは再放送、以降毎年一回は再放送しているとすごく再放送をしています3 4
メジャー感を維持するための攻めの広告出稿
ブシロードは他のコンテンツ会社ではなかなか見ないレベルで広告を常に出しています。 特に都内の主に山手線圏内にいると感じますが、駅にはだいたい必ず一個はブシロードの広告があります。
例えばこのツイートはいずれも時期が違いますが、ライブや新放送といった凄いイベントがないときでもだいたい広告を出しています。 ここに出しているのは新宿の例ですが、他の駅でも同じようにかなりの頻度で見かけます。 内容もしょっちゅう変わっていて、ちょっと前は最新作の D4DJ だったりします。
#ガルパ#バンドリ
— タツキんぐっ (@tatsuki_2045) May 1, 2019
新宿駅にて pic.twitter.com/tFGUFrirkI
新宿駅の広告だぎゃあ🎵#バンドリ#新宿駅#バンドリの広告#バンドリアニメ3rd_04#タコさんウィンナーだぎゃあ pic.twitter.com/e800liTDVP
— ティラ@Vツイッタラー (@Tirailleur_CC) February 20, 2020
新宿駅にて(´ー`)ノ#バンドリ #ガルパ pic.twitter.com/Uu70T73ll0
— 🥑はっせー🥑@2021 1/3 fripSide大阪? (@hase_zero1) January 29, 2018
これはヴァンガード時代からやっていた戦略らしく、 曰くカードゲームに置いては対戦相手がいるか・新しいパックが維持されるかがユーザやカードゲーム店の判断に大きく影響を及ぼすため、コミュニティや入ろうとしている人に対してメジャー感(≒コミュニティが長く続く感)を出すことが長期的に維持するために重要らしいです。
このメジャー感を維持するためには他にも、秋葉原の駅構内にTCGステーション5という直営店を立て、TCGに興味のない人に対してのリーチを狙うなどかなりの額を使ってるのがわかります。
おそらくライブとソシャゲの二本立てで攻めるバンドリも、周りでやっている・聞いている人がいるとか、新しいコンテンツが追加されるかは同じように人気や課金をするかといった判断を大きく左右すると考えられるので、ほぼ同じ戦略を取っているのだと思います。
また、本書ではりんごを買うように広告枠を買うと称して、大量の広告を投下して認知を取ることに触れていますが、とはいえお金を湯水の如く使っているわけではなさそうです。
例えば山手線のラッピング列車といった高いお金をかける広告は、
GWやコミケの時期みたいな都内に人が少ないけどオタクが多い時期を狙って増やしてるということを述べています。
何故、ブシロードは毎年この時期、東京で交通広告を増やすからって?御盆なので広告単価が下がるが(会社等休みが多い)、某イベントのおかげで地方から大勢のアニメファン等が上京するから効率が良いからです。
— 木谷高明 (@kidanit) August 9, 2016
手法のアップデート
さらに、バンドリでは単に踏襲するだけではなくアップデートした手法を取り入れています。 具体的には当時なかったyoutubeでの期間限定無料配信を頻繁にやっており、TV以外でも何らかの方法でアニメに無料でアクセスできる状態を頻繁に作っています。これに再放送が組み合わさるので、かなり追いつきやすい状態に持っていっています6 7 8。
また、バンドリや最新のD4DJでは放送開始日をずらすといったことも行っています。 通常アニメは1,4,7,10月の1-2週目からスタートするのがほとんどですが、 同時にたくさんのアニメが始まってしまうため、最初に述べたようないわゆる三話切りが起きてしまいます。
ですが、バンドリは3週目(1/21)と意図的に他のアニメとのスタートを遅らせ、見てもらえる可能性・置いていかれたとなる可能性を減らしています9。 最新作のD4DJでは一ヶ月ずらした11/30から、かつソーシャルゲームのリリースをその直前に行うなど、更に手法が進化しています。
普通テレビ番組って3ヶ月ごと枠が決まってそうなので、このずらしたやつをするには前後両方の枠を抑える必要があるのかなと想定でき、他のところではなかなかできないユニークな施策だなと思います。 これも広告にかなりの量を使っているブシロードならではなのかなと思います。
まとめ
このように本書は今から見ると古い本になりますが、現在のブシロードでもここで書かれていることがだいぶ受け継がれており、今読んでもなかなか面白い本です。
なお、この本で取り上げているヴァイスシュヴァルツとヴァンガード、新日本プロレスですが、決算資料をみると6年経った未でも稼ぎ頭なのが凄いです。
(16p、さらに新日本プロレスがヴァンガード以上に売り上げてるのもすごい)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7803/tdnet/1882929/00.pdf
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特におそらくブシロードのメインターゲット層である高校生以下(バンドリは高校生?、ヴァンガードは中高生ぐらい?)はこの辺シビアだと思うので、結構な数が想定されます。 ↩︎
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2009年〜2020年6月で閉店 https://bushiroad.com/shopnews ↩︎
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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002025.000014827.html ↩︎
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https://collabo-cafe.com/events/collabo/bang-dream-anime-free2020/ ↩︎