「ユニコーン企業のひみつ」を読んだがたぶん「ひみつ」なんてものは無いのだろう
「ユニコーン企業のひみつ」という本を読みました。 一見すると書かれていることはひみつという程ではなく、言われると知っているというものばかりですが、 Spotifyはそれを想像を超えるレベルで徹底していて、このやりきる事こそがひみつにあたるのではという感想を持ちました。
例えば本書では「スタートアップは学習する機械」「素早く失敗して学習をする」「ミッションを定義して方向性を示す」「チームに権限をもたせ信頼する」といった、 ある程度ベンチャーの風土に親しんでいれば知っているようなトピックが多数挙げられています。 そのため一見するとそこまで新しいことはなさそうに見えるのですが、実行される内容は生半可ではありませんでした。
例えば決定権をチームに持たせて自走させるといったようなことが語られますが、上位レイヤーは必要な情報を提供したりミッションを伝えるが決定はしないという役割に徹しており、チームに与える決定権が想像とは大きく異なっていました。 たとえ経営者が直近やりたいことを提示したとしても、チームのミッションと合わないのであれば無視できるというレベルで徹底しています。
もちろんこの強力な権限をもたせるということは局所最適に陥らないように自律とサポートを必要とします。 Spotifyとしては十分な情報が与えられればチームは全体にとって最適な判断をできるという信念のもと、情報をオープンにし様々な方法でチームの意思決定をサポートしているそうです。 また、チームが失敗することも織り込み済みで、失敗も含めた経験を通じて人が育つ、もしも本当にダメなら間違った人材を雇っていたということがわかるというスタンスで基本チームを信頼して進めているようです。
このようにこの本の中ではある程度ベンチャーやいわゆる「アジャイル開発」とかの文化をかじったことがある人であれば知っているトピックが多いため、 特段これがユニコーン企業のひみつだ!と言えるものは有りません1。 あえて言うなら高いレベルでそれらを実現できるようになるまでの過程こそが「ひみつ」にあたると思うのですが、そこに関しては残念ながら書かれていません。 おそらく細かい事の積み重ねだと思うので、書こうと思っても明文化するのは難しく、再現性もないと思います。
また、読んでいて思ったのは、いつからこういった文化になったのかが気になります。売上が十分ではない、本当にPMFを探っているような段階からこうだったのか、それともある程度ユーザを確保して方向性がわかった上で加速していくためにこういう文化になったのかといったところです。 というのも、読んでてある程度規模が大きくなっている状態でさらにグロースするための話かなといった感じで、まだユーザが十分についていない(≒資金がどんどん減っていっている状態)でやるのは難しそうに思います。 実際、訳者あとがきにもこれは著者がいたタイミングのスナップショットにすぎないと書かれており、現在やおそらく過去のSpotifyの文化とはまた違うため、どういうふうにここにたどり着いたのかは気になります。
本ではチームを信頼して任せれば全体的にすごいうまく回るように見えますが、かなり人に依存するため、採用を相当しっかりやっているんだろうなといった感想を持ちました。 また、最悪チーム全員クビにできるぐらい解雇規制が緩い国ならではなのかなとも思うため、日本で経営者がこの判断をするのは相当心理的ハードルが高そうです。 とはいえ、正解がわからない問題を解決するプロダクトを開発している人ならば役に立つことは多く、チームが単にストーリーをこなすだけの「野菜切り係」にならないようになるためにも多くの人が読むべき一冊でした。
読書メモ
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ひみつとはなにか
- やりきる ということがひみつではないか
- 書かれていることは普通
- ベンチャーの文化に馴染んでいるのであれば
- リリースして学習サイクルを回す
- 検証こそが価値がある
- 素早く失敗して学習する
- チームに権限をもたせ自立させる
- etc…
- Spotifyは徹底している
- すべての決定権をチームに
- 経営者の号令も無視できる
- 経営層が今したいことをカンパニーベットで表現(重要事項)
- チームのミッションと合わなければ無視できる
- 経営者の号令も無視できる
- チームは「無慈悲で苛烈なデリバリー精鋭部隊」
- 全ては検証をいかに早く回すかがすべて
- チームに任せて失敗したらそれも学習
- チームは局所最適に陥らないよう自律が必要
- 自分だけが良いに陥ると大変
- そのために経営者の方針等を利用できる
- 失敗しても間違った人材を雇ったことがわかる
- これは解雇規制が緩いアメリカならでは
- チームは局所最適に陥らないよう自律が必要
- すべての決定権をチームに
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発見と学習こそが成功
- 答えがわからないことに取り組む
- やってみて初めて分かることを重要
- 失敗はOK
- スタートアップは「学習する機械」
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ミッションを使って権限と自律性を与える
- 予定の+-10%かどうかは無視
- 実証こそが重要
- ミッションはプロダクトに限定しない
- 他のエンジニアリングチームを早くすすめる
- IPO準備を整える
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スクワッド(チーム)
- ミッションにどう到達するかはチームが決める
- 優先順位を決める
- 会社にとって最善かをチームに決める
- 良き市民の必要性
- お金を入れれば勝てるならそうする
- 無駄遣いしないという信頼
- 無数のトレードオフの権限を持っていること
- 時間の余裕と探索範囲の余地を与える
- お金を入れれば勝てるならそうする
- 失敗したら間違った人材を雇っていたということがわかる
- やりがいのある仕事を与えてサポートをして人を育てている
- ミッションにどう到達するかはチームが決める
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トライブ、チャプター、ギルド
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スクワッドの支援と調整のための足場
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サーバントリーダー
- 他者のニーズを第一に考える
- メンバーとチームのいずれもが成長して能力を最大限に発揮する
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トライブ
- ミッションが似ているスクワッドがまとまったもの
- 40-150人
- 他のトライブへの依存を減らす
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従業員に所属するチームを選ばせて仕事を引き受けさせている
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カンパニーベット
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DIBB
- なぜベットが必要なのかを説明する方法
- data
- insight インサイト
- データからの発見
- belief 確信
- 方向や複数のインサイトに基づく仮設
- bet ベット
- 具体的なゴール
- リソースを投入して実現させるもの
- なぜベットが必要なのかを説明する方法
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大事なこと
- 重要なことから終わらせる
- 流動性を高める
- フォーカスを強制する
- 全社横断の連携を可能にする
- 自分の部署より広い視野で考える
- コミュニケーションプランを考える
- 早いうちから統合する
- 大きな取り組みは時期をずらす
- チームのミッションに合ったベットがないなら無視できる
- 最終決定権はスクワッドにある
- 部分最適になってないかを確認しなければならない
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ハックウィーク
- 何してもいい
- 必ず発表しなければならない
- 自分の行動に責任を取る
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大事にしていること
- 何者であるかよりも、何者になれるか
- 今日できることと明日できること
- 最も早く学んだものが勝つ
- 強いチームは強い個人を凌駕する
- 思慮深い要件収集より学習と実行のスピード
- イテレーションを短くする
- 世界に誇る技術は少なく
- 行動は言葉にまさる
- 目的で動機づける
- 思考は戦略的に、行動は局所的に
- プロジェクトではなくチームに投資する
- 技術を一級市民として扱う
- 権限を与え、信頼する
- あらゆる言い訳を取り除く
- 自分たちこそが旗振り役
- 自分たちが決めるんだ
- 自分たちが責任を果たすんだ
- 何者であるかよりも、何者になれるか
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いわゆる「アジャイル開発」は原義からはずれているので、目新しくないのはそもそもSpotifyの話もマージされている結果かもしれません ↩︎